メタンハイドレートとは「メタン(methane)」と「ハイドレート(hydrate)」の2語からなる言葉です。メタンとは燃えるガスのことで、エネルギー資源である天然ガスの主成分。一方のハイドレートは、日本語だと「水和物(すいわぶつ)」という意味です。
つまり、水分子が、ある温度・圧力環境で、かご状の構造を作り、そのかご構造の中にメタン分子が含まれているものをメタンハイドレートと呼び、そこからメタンガスを抽出することで、エネルギー資源として活用できる、というもの。
例えば人工のメタンハイドレートは白い結晶で、触ると氷の様に冷たく、見た目も氷そのもの。火を近づけると燃えだすので「燃える氷」とも呼ばれています。しかし、開発対象とされている天然のメタンハイドレートは、人工物の様に真っ白な塊ではなく、砂質堆積物の砂粒子の間に挟まれて存在するため、メタンハイドレートを含む地層は白く見えず、ほとんど土の様に見えるのが本来の特徴です。
生成条件は、
①温度が低いこと
②圧力が高いこと
の2つ。
メタンハイドレートは、地層中に含まれる動植物の死骸が分解されて発生したメタンガスが、低温・高圧の環境下で水と結合してできると推測されていますが、これらは、世界各地の海洋や極地方の陸上でその存在が確認されており、日本では水深500m以上の海の、海底下の地層中に存在しています。日本近海に限っても北海道から沖縄までの各所で確認されており、特に東海地方沖から宮崎県沖に広がる「南海トラフ」と呼ばれる地域に広く分布していると考えられています。
日本は元来、石油や天然ガスなどのエネルギー資源に乏しく、その殆どを輸入に頼っています。そもそもこれらの化石燃料は有限であり、燃やすと温室効果ガスである二酸化炭素や大気汚染のもとになる硫黄酸化物、窒素酸化物が排出されるため、これまでも環境負荷の大きさが問題になってきました。また、日本と中国それぞれの排他的経済水域内に埋蔵地が股がっていることから、その開発を巡って問題となっている「東シナ海ガス田問題」、更に数年前から高騰を続けるガソリン価格の影響など、エネルギー問題とは、単にエコロジーや生活インフラとしての問題だけに止まらず、実は互いの国益や外交上の問題、世界経済にも大きな影響を与えかねない、非常にデリケートな問題でもあるのです。
こうした中、現在解っている情報として、日本周辺に存在する天然メタンハイドレートの量は、日本国内で消費している天然ガスの約100年分とも言われているのです。MH21の調査結果では、東部南海トラフに限った場合でも、その埋蔵量は日本が消費している天然ガスの14年分に相当するそうです。
メタンハイドレートから得られたメタンガスは、家庭の都市ガスや発電燃料、天然ガス車、燃料電池など、さまざまなエネルギーとしても利用が可能とのこと。メタンガスも温室効果ガスの1つですが、石油や石炭に比べると、燃焼時の窒素化合物や二酸化炭素の排出量が半分程度と少ないため、石油や石炭に替わる次世代の新エネルギー資源として注目を集めています。
日本では1995年頃からメタンハイドレートの研究が本格化。2001年には経済産業省による「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」が発表され、メタンハイドレートの資源化を目指した研究が国家プロジェクトとして動き始めました。現在、産官学機関のMH21を中心に、メタンハイドレートの研究・開発が進められています。2001年~2008年までは〝フェーズ1〟として、メタンハイドレートの分布調査、資源量の確認、候補海域の選定などを実施。2009年から〝フェーズ2〟が始まり、海洋での生産試験や生産手法の検証が行われています。MH21推進グループリーダーは「メタンハイドレートの研究は、アメリカ、カナダ、韓国、中国、インドなどでも進んでいるが、日本の研究・開発は世界でもトップクラス」と語っています。しかし「研究・開発には莫大な費用がかかり、生産に向けた低コスト化や、メタンガスの効率的な生産方法の検討といった課題も多い。まずは2018年までに、商業化に向けた技術基盤の確立を目指したい」と...。
特に地層中で個体として存在するメタンハイドレートをエネルギー資源として利用するためには、メタンハイドレートを地層中で溶かして水や砂と分離させ、純粋にメタンガスのみを、より安全に効率良く回収する方法の開発が、今最も必要不可欠なのです。
海洋資源として大きな可能性を秘めたメタンハイドレート。実用化に向けた研究・開発の進展とともに、世間の注目も更に高まっていくことは間違いありません。近い将来、電化製品や自動車などと並び、日本もメタンガスの輸出国として、アラブやドバイに並ぶ世界的な資源大国となれるでしょうか?
[Reference]
メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21)
text by wk