ethical(エシカル)とは、「倫理的」「道徳上」という意味の形容詞である。近年では、英語圏を中心に倫理的活動を「エシカル ○○○○」と表現し、「倫理的=環境保全や社会貢献」という意味合いが強くなってきている。私たちにも身近な倫理的活動としては、主にエシカルコンシューマリズムが挙げられる。これは「環境や社会に配慮した工程・流通で製造された商品を選択し、そうでないものを選択しない」という消費活動のこと。
これらの商品を選択する人たちは、総じて「エシカルコンシューマー」と呼ばれ、それ以外にも「エコバッグを使う」「マイ箸を持ち歩く」「寄付金付きの商品を買う」などのエシカル消費を積極的に行う人たちのことである。
また、若者のエシカル志向は旅行分野でも顕著で、大手旅行代理店が企画した「社会貢献ツアー」の成功もその1例。物見遊山の旅への関心が薄れる反面、ボランティアなどが組込まれた社会貢献旅行が参加者数を伸ばしている。
1970年代は市民運動(第1世代)の時代で、かなり政治色や党派色が強かったが、1995年の阪神淡路大震災以降は非営利組織(NPO)の時代に入ったと言ってよい。しかし、低収入など厳しい労働環境もあり、NPOに参加するのは特殊な人(第2世代)というイメージが定着してしまったのだが、この4~5年でそんな状況にも変化が起き始めた。大学生とアラサー女性を中心に、大手企業のキャリア女性、外資系コンサルタント、金融機関の社員、ギャルなど、これまでこの分野で見かけなかった顔ぶれが熱狂的に参加し始めたのだ。〝ビジネスの視点〟と共に〝社会貢献はカッコいい!〟という感覚を持っているのが、これら〝社会貢献・第3世代〟の特徴でもある。
「若者は、いつの時代でも世界を変えることに熱狂するものだが、重要なのは本当に世界を変えられると確信できる『武器』を手に入れるかどうかだ。60年代なら音楽。80年代ならオシャレな消費文化。90年代ならインターネット。そして今は新ビジネスなどのソーシャルイノベーションのアイディアとネットワークが若者達の武器になっている」と専門家は語る。
ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)が会社をつくり、ボランティアでその運営に協力し、そしてそこで作られた製品を買うことも社会貢献なのである。若い世代を核に年長者も含め、そんな環境が今生まれつつある。2000年代のキャッチフレーズだったエコやロハスが静的で受け身な印象なのに対して、エシカルという言葉は積極的で能動的に響く。その点も今の若者の気分にマッチしていて、2010年代に相応しい響きもあるのではないだろうか。
昨年、エシカルを軸に売上を3倍に伸ばした会社がある。しかし社長は「自分たちが生き残るためなら、何でもする企業にはなりたくない」と語る。この様に、社会的価値への関心は高まる一方であるが、現実には環境や社会問題などエシカルという価値への関心が特に高いエシカルコンシューマーグループは、消費者全体の1割にも満たない。しかし、多数派ではなくても収入や情報感度が高いこの層が今後リーダーとなり、他の流行追随グループや自己顕示グループに波及していけるのではないか、との予測もある。
関心はあるが具体的な消費行動に結びつかない人は多い。身近にエシカル商品を売っていないことや仕組みや効果が解り難いことなどが主な理由であるが、これらの壁をうまく取払ったのがボルヴィックだ。売上に応じてアフリカの人々に清潔な水が供給されるというキャンペーンを開始。期間中の売上が3割増えるという実績を上げた。こうした手法は「コーズ・リレーテッド・マーケティング」と呼ばれ、THE MAGAZINEでも以前に紹介されている通り(Causebrand ~新しい買い物の形~)。ボルヴィックの成功を受け、その後多くの製品へとこのマーケティング手法が広がっていった。
底流にあるのは「どうせ買うなら」社会に良いものを買おう、という意識だ。値段に糸目を付けず、という熱心なエシカル層とはやや違う、ライトなエシカル派が、少しずつではあるが増え始めている。価格や性能がほぼ同じならエシカルな方を選ぶ。自分にもメリットがあればなお良い。小売業界で数年前から広まった下取りや古着、中古家具などリサイクル販売の人気も、実益とエシカル的な満足を同時に得られる点が大きい。地産地消というエシカル性と価格や味という実益を兼ね備えた農産物直売所も勢力を伸ばしている。
また、発展途上国や環境問題に使い道を限った社会貢献型の「外国債券」は為替変動による元本割れなどのリスクがあるにもかかわらず、従来の3倍の売れ行きだと言う。使われ方の明確さから、若年層がネット購入しているという。
何がエシカルなのか?明確な定義や線引きは、実はエコ以上に難しい。世界的規模で消費構造が変化している現在、〝エシカル〟という新しい価値観は、今後重要な消費の動機になると思われるが、例えばカーボンオフセット(排出権取引)の様に、本来の目的である「CO2排出量削減」にはあまり貢献していない、という事例もあるので、この手法を使ってビジネスに結びつけようとする企業には、文字通り「倫理的」「道徳上」のモラルが問われることになるだろう。
そして、これら新しい消費構造の台頭によって問われているのは、我々消費者の〝企業倫理〟に対する監視行動なのではないだろうか?消費の選択そのものが、21世紀に残すべき企業の選択でもあるのだから。
[Reference]
日本経済新聞
日経ウーマン
text by wk