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  • Posted on
    2010.07.31
  • posted by kenshin.

Yuki Hashimoto atelier spontanément







GM:フローリストを目指されたきっかけやエピソードがあれば教えて下さい。

YH:実は元々フローリストになりたかった訳ではないんです。家が近いという理由だけでフラワーショップのバイトを始めたのがきっかけでした。ある時、お花の雑誌か何かでフランス特集をしていたんですが、その記事にすごい衝撃を受けてしまい、フランス留学を決意したんです。でも、その時は縁が無かったのかビザがおりず、仕方無く諦めることに...。とりあえず観光旅行で、約1ヶ月半ほど、フランスの花屋巡りをしました。
その時感じたのが「フランスでも日本でも、花屋にそんな大きな違いは無い」ということ。フランスにも良い花屋があるし、あまり良くない花屋もある。中でも「良い花屋」とは、店主のこだわりや心意気が見えるお店。「花は作り手によって全然違う」という手応えを感じ、そのまま日本に帰ってきて、すぐに自分のショップを開きました。
日本人は、欧米に対するコンプレックスが強い傾向にありますが、フランスで感じた良い花屋を日本人でもやれるんじゃないかなと。逆に日本人にしかできない花屋の形があるんじゃないか、made in japanみたいなもの、要は心構えとか心意気なのではないかと思えたんです。



GM:いきなり独立って、凄くないですか?

YH:顧客も知り合いも何も無いゼロからのスタートで、気持ちと情熱だけでしたが、何故だか自信はありましたね。根拠のない自信が(笑)。花屋は花を売るというより、実は信用を売る商売なんですよ。例えば誰かにお花を贈りたい時、何処かの花屋に頼むと思うんですが、お客は商品を直接目にしない事が多いんです。だから相応の信頼関係が築けていないと任せられませんよね?だからはじめの数年間はアルバイトをしながらの苦しい経営でした。徐々に徐々に信用を付けながら少しずつって感じでしたね。



GM:その信用を得るために、何か特別な努力はされましたか?

YH:努力と言うより、1回1回のオーダーで1つ1つ作った(アレンジした)作品が、そのまま真剣勝負でした。手を抜かない、と言うか抜けませんよね。送られた方がそのお花を貰って嬉しかったら、違う誰かに評判が伝わって私のお店を紹介してくれます。そんな風に口コミで繋がっていく。言い方を変えると、お客さんとの距離が近いんですよね、でもそれが楽しさの1つでもあると思っています。

また、日本では専らフラワーアレンジやギフトがメインなのですが、ヨーロッパでは自宅用に買う人が多い。例えばパリでは自宅に庭のある家庭が少ないので、切り花文化が根付いたんです。また「お花は(値段が)高い」というイメージがありますが、その価値観が正しく理解されていないのが残念です。海外でも値段は日本とあまり変わらないのにすごく売れてますから。 例えば、美味しい食事にお金を払うのと似ていると思うんですよ。そんな感じで花も貰った時の一瞬の感動を大事にしてほしい。また、そういう花を作りたいし、余韻を残せる様な花を提供していけたらと思います。ただただ花を売るだけでは、小売店の存在価値が無くなってしまうのではないでしょうか?



GM:なるほど、どんな仕事でも根本は同じなんですね!
私たち美容師の世界でも全く同じことが言えて、ちょっとした食事やデートの時、プロのヘアアレンジってすごく素敵に変身できるんです。でも、なかなかそういう価値観が根付いていないので、未だにヘアサロンでするヘアセット=冠婚葬祭用、という図式で語られることが多いですね。もちろんその場限りのヘアアレンジかも知れませんが、その一瞬の美に対して価値を見出せる様な成熟した国に、日本もなっていって欲しいなと思います。 少し話がそれてしまいましたが、昨今、不可能と言われていた青い薔薇の生産にサントリーが成功しました。この様なバイオテクノロジーによって人工的に新しい花を作ることについてはどう思われますか?私たち素人の感覚だと、自然とは逆に向かっている様な気がするのですが...。 YH:市場に出回っている花は、突き詰めれば全部人工的なんですよ!なのでバイオテクノロジーから生まれようが、畑で生まれようがあまり抵抗はありません。美しい花が次々と生まれるのであれば、それはそれで喜ばしいことです。矛盾するかも知れませんが、大自然が産み出した植物も人為的な生産物としての花も、花としての自然な美しさにこそその魅力が備わっているのだと思います。



GM:ちなみに、spontanémentという屋号には、何かそのあたりの思いが込められているのでしょうか?

YH:spontanémentには、「自然に」とか「自然発生的な」という意味があり、僕自身自然に身を任せる人間なんで(笑)花自体もデコラティブなものはあまり好きではありません。そのままの花の美しさを見せられる様なシンプルなデザインが好きですし、そういうアレンジを心がけています。


GM:ずばり橋本さんにとって「花」とは何ですか?また、その魅力や花がもたらす効果など教えて頂けませんか?

YH:本能的にみんな花が好きなはずなんですよ。逆に花が嫌いな人っています?いたら教えて欲しいくらいです(笑)。
僕が思うに、お花だけでなく植物全般にあまり触れる機会の無い人もいますが、どの時点で気付くかってことなんだと思います。誰しも早晩花の魅力に気付くんですが、たまたま僕は早かっただけで...。しかも一度ハマるとのめり込んでしまうんです。そんな魅力が花にはもともと備わっているのではないでしょうか?また、花を観て「美しい」と思える人の心が美しいのだと思うんです。そういう心の余裕を与えてくれるのも、花の持つ魅力なのだと感じます。




GM:人と花の関係についてどのような考えをお持ちですか?また、アレンジをする上でどんなふうにインスピレーションが涌くのですか?

YH:今って、わりとデコラティブなものを作る人が多い様に感じるんですが、僕はキレイな花を仕入れてちょっとだけ僕らしさを加えるだけ。花屋の仕事はそれだけだと思っています。カッコ良く言えば、花をひきたてるサポート役ってところでしょうか? 自分のセンスをガツガツ出し過ぎるよりも、花そのものの良さを引き出してあげるのが一番いいのかなと。

結局それが一番飽きないし、くどくない。料理にもありますよね、くどいの(苦笑)。
アレンジするとき、花よりまず人を観ます。どちらも大事ですが、最初に人を観てその人の持つイメージやその人から受けるインスピレーションを大切にしています。その辺は、ファッション業界の皆さんとも似ているのかな?今その瞬間に一番キレイな花を選んで、その人らしくアレンジする。そんな感じですかね。










GM:ご自分の畑を持ちたいそうですが、それは何故ですか?

YH:野外で自然に育った花は強いんです。ハウス栽培の花には無いパワーがあります。それに新鮮で良い花は、大手に回ってしまう事が多いので、我々個人店にはなかなか入ってこない、というのが大きな理由ですね。
また、僕はよくグリーンを使うんですが、例えばブーケだとミントなどの脇役次第で良くなるか、ありふれたものになるかが左右されてしまうことが多くて、しかも、その葉っぱがまた結構高いんですよ。お客さんはそんなこと知らないので、たかが葉っぱにそんな高い金額を出したくないのが正直なところだと思います。そこの部分で、自分の畑で商品を栽培できれば、コスト面からも、もっと良いものを提供できると思うからです。
将来的には、色々な植物を育てながらアレンジし、「本日の朝切り」みたいな感じで、摘みたての花のディスプレイなど試してみたいですね。



GM:1人のフローリストとして、花屋の「あるべき姿」とはどんなものだと思われますか?

YH:人生には花が必要だし、花屋はもっと厳密に評価されるべきだと思っています。
例えばケーキ屋さんだと「近いし、とりあえずそこのケーキ屋でいいや」なんて事はないと思うんです。あそこのケーキ屋さんで作っているケーキは特に美味しいから、わざわざ足を運んで買いに行くと思うんですよ。作る方も、常に努力を怠らないのが当然で、お客さんはそれを厳しく評価してお店を選んでいるはずなんです。そういう観点で見ていくと、花屋業界は他の業種に比べ、残念ながら全体的にクオリティが低いと感じざるを得ません。起業し易い反面、努力をしてる人が少ないのではないか?というのがその理由です。
今はまだ「あそこの花屋がカッコいいからあそこに買いに行く」っていう人も少ないし、お客様自体も花やアレンジのクオリティーを気にしていないのか、もしくはそれ自体よく解っていらっしゃらないのか...。それに甘んじてかどうかは解りませんが、街の花屋は20~30年前のアレンジをそのままやってるところも多く、クオリティーが悲しいぐらいに低い。ある意味「停滞」してしまっているんですかね...。それを許している、という意味では、お客さんの側も「良いものを見抜く眼」を養って欲しいという思いはあります。しかしその為には、誰が見ていなくても、自分のクオリティーは自分で維持する、という徹底したプロ意識が重要なのだと強く感じます。




GM:なるほど、難しい問題ですね。我々美容業界にも多かれ少なかれ同じ様な問題は存在します。しかし、自浄作用と言いますか、業界全体で取組んでいく問題なのかな、とも思えるんですが、如何ですか?

YH:例えばA.B.C3種類の花があるとして、鮮度もA.B.Cの順だとします。普通に考えれば、一番新鮮でキレイなAを迷わず使うのが当たり前だと思うんです。しかし、お客さんの都合ではなく花屋の都合で、最も古いC、もしくはその次に古いBを使う、というのが古い花屋業界全体の教育なのです。新しいものばかり勧めていたのでは、常にロスが出る。だから古いものから使っていき、新鮮で長持ちするAをなるべく最後まで残す、という考え方なのでしょうが...。
TPOに合わせて古いものが良いときももちろんあります。例えば結婚式だと、長持ちしなくてもその本番当日が重要なので、既に咲いてる花の方が良いわけです。そういったことを無視して、単に「古いものから消化する」という決まりに縛られ、目の前のお客さんに喜んでもらう、という気持ちを無くしてしまっては本末転倒だと思うんです。もちろんきれいごとだけではご飯は食べていけないのも事実ですが、そこは何とかして智慧を絞り「より良いものをお届けしたい」という心構えでないと、それに相応しいお金なんて頂けないですよ。そういう意味からも、これからのこの業界は真剣にクオリティーを上げていかないと将来的に厳しいのかなと...。



GM:そのあとレベルが上がった先には何があると思いますか?

YH:花を贈る事が特別なことではなくなって欲しいと思います。それにもっともっと個人店が増えて欲しい。今は大手ばっかりなんです。真面目でセンスや思いやりのあるお店が増えれば、お客さんもお店選びの楽しみが増えるはずです。今は選べるほど良い花屋が少ない。ケーキ屋さんやブティックみたいに選べるようになると、個人的にも嬉しいです。例えば、送る相手によって花屋を選べるといいんじゃないでしょうか?「モダンな花が好きなあの人にはこの花屋さんかな?」、「ナチュラルなのが好きな人にはここ!」、「ゴージャス感が出したいならここ!」みたいに。




                         
GM:将来についてお聞かせ下さい。

YH:最近、生け花を習ってるんですが、特に花を生けるまでの姿勢が大切なんです。今その部分から見直してるのは、結局そこが現れるから。「素敵だな」と思う人の花は、やっぱり素敵なんですね。くどい人のはやっぱりどこかくどいんですよ(笑)。

僕には明確なスタイルがあるので、更に上を目指すには日常生活を変え、内面を磨くしかない、というところにやっと到達しました。それが、良くも悪くも僕の作る花に出てしまうと思うんで。 そして僕自身、自分には花屋以外無い(ある意味天職)と思っています。だから、今の仕事を辞めたいと思ったことは一度もありません。しかし、特に男性フローリストは、給料が安過ぎて結婚して生活を維持しようと思うと、仕方無く辞めざるを得なかったり、なかなかそのあたりのモチベーションの維持も難しいのが現実なんです。
そんな状況もあり、自分の人生の後半は、有能なフローリストを育ててみたいと考えています。また、色々な形で花や業界にも貢献したいとう気持ちがありますので、事業・経営としてもっと余力の持てる仕組み作りの必要性を痛感しています。自分にどこまでやれるかは未知数ですが、暫くはのんびりしていられそうにありません(笑)。

GM:今後のご活躍を期待してます。今日は、ありがとうございました。











YUKI  HASHIMOTO
フローリスト
ATELIER  SPONTANEMENT  主宰
http://www.spontanement.com
2-17-3 shinmachi,nishi-ku,osaka     zip 550-0013   Japan
tel 06.65.31.08.86




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