6am for THE CREATOR MAGAZINE (Spain)
H.M イラストレーションをはじめ、現在のクリエイテイブな活動をスタートした経緯はなんですか?
YOSHI TAJIMA 大学在学中よりレコード・スリーブの仕事を始め、帰国後もフリーランスでグラフィックデザインの活動をしていましたが、何か物足りなさを感じていました。そんな時に海外のグラフィック系ウェブ・マガジンで見掛けた新しい作品群にとても刺激を受けました。2001~03年頃です。それらは、わかりやすく云えばグラフィック寄りのイラストレーションで、日本ではほとんど見掛けないスタイルでした。とにかく自らの創造で何かを表現してみたいという思いがあったので、最初に出来た作品をポルトガルのウェブ・マガジンへ送ってみました。そうしたらそのウェブ・マガジン編集長が気を利かせてドイツの音楽レーベルに紹介してくれたりして、一年後には様々な国(ドイツ/スペイン/ブラジル/アルゼンチン/オーストラリア/香港)のウェブ・マガジンや雑誌、作品集から連絡が来るようになっていました。ウェブのおかげで作品が簡単に世界旅行できるようになりました(笑)。その頃、日本ではイラストレーターとしてまったく活動していませんでしたが。
H.M なるほど。どんな職種にも言えると思うのですが、まずは好きな事や興味のある物事から始まり、継続する中で様々な壁にもぶち当たり、変化しながら進んで行くと自分の意志とは別な事が生まれたりして。只、個人的にも思うのですが、やはり大切なのは全ては自己の創造性や探究心、そして行動があっての在り方ですね!
しかし、イラストレーターとしてその当時活動していなかったのは意外ですが、いつ頃からイラストレーションを始めたのですか? またそのきっかけはあるのですか?
YOSHI TAJIMA 自分でもイラストレーションの活動をするとは思っていませんでした。海外、特にスペイン~ポルトガル語圏の若い人達の作品群は混沌の中にギリギリのバランスがあったりして刺激を受けました。メチャクチャな輩もたくさんいますが(笑)。そんな自由な発想から生まれる彼らの作品群を観て、自らの手を動かしていくうちに、自分のなかで勝手に敷いていたルールや壁がなくなっていきました。当初(2003年頃)は写真コラージュを創ったりしながら、それまでアナログで培ってきたものをいかにデジタルで融合して表現するかを模索していました。そんな遊びを繰り返していくうちに、女性の顔をドローイングにしたらどうだろうと何気なく描いてみたらハマってしまいました(笑)。
Wild Style for THE GREAT ESCAPE (Germany)
H.M 海外での活動を始めたのは大学在学中でしたよね?
また、一時期東京から拠点を海外にしたのか? そしてなぜイギリスをチョイスされたのですか?
YOSHI TAJIMA 都内のアメリカ大学へ通っていたのですが、グラフィック・デザインの専門課程に進む際にロンドンにあるアメリカ大学へ転校しました。ブリティッシュ・ロック好きだったので"好きなアーティストのスリーブを手掛けたい"という軽い理由です。あと、米語ではなく英語を話せるようになりたかった。今だったらベルリンに行っていたと思いますが(笑)。
H.M 僕も同じような感じでイギリス在住は決めました(笑)。なんとなくその感覚は分ります。若い時期の勢いですかね?
只、今だったらベルリンというのは、やはりアート・シーンもしかり僕の勝手なイメージですが、田嶋さんの作品に登場する女性像から感じるエロティシズムみたいな所がベルリンには存在するのかな? なんて思うのですが、その辺りは如何ですか?
YOSHI TAJIMA 先ず、今のベルリンはアーティストが活動しやすい環境だと思うからです。そして好きなアーティストにドイツ~ゲルマン系の人が多いのも一理あるかもしれません。ゲルハルト・リヒターやトーマス・ルフをはじめ、ドイツのグラフィックデザインや音楽も気になります。あと多大なインスピレーションを受けている北方ルネサンスの画家(ルーカス・クラナッハやハンス・バルドゥング・グリーンなど)が描いた幻想的でエロティックな女性が大好きだからかも...。ゲルマンの深い森の中でのファンタジーを考えるだけでワクワクしますね。そういえば、DJ HELL率いるベルリンのInternational Deejay Gigolo Records の仕事もエロティックな女性像でした(笑)。なぜか「ベルリン」という響きには退廃的なイメージを感じます。
Magic for PLAYSTATION3 dress (Sony Computer Entertainment , Japan)
H.M では海外での活動は具体的に何をしていましたか? そこで何を感じ何を得たと思いますか?
YOSHI TAJIMA 学生時代のロンドンでは真面目に授業に出席しつつ夜の課外授業もしっかり楽しみました(笑)。ロンドンで出会った人達からはD.I.Y.精神を得ました。
H.M D.I.Y.精神とはなんですか? また学生生活を終え、最初に海外での活動はなんでしたか?
YOSHI TAJIMA D.I.Y.はDo It Yourself~何でも自分でやってみる~という事です。大学在学中から現在までずっとフリーランスで活動しているのもD.I.Y.精神ですね(笑)。
最初の海外での活動は学生時代から知り合いだったミュージシャンのレコード・スリーブのデザインでした。たまたまそのミュージシャンの作品がVirgin Recordからのリリースだったので、ロンドンまでの飛行機はもちろんVirginでした(笑)。今だったらわざわざロンドンまで行きませんよね。この頃はまだグラフィック・デザインの活動だけでした。
H.M 日本と海外での活動の違いはありますか?
また,美的感覚やクリエイテイブな視点での違いは何だと思いますか?
YOSHI TAJIMA イラストレーションに関して云えば、日本ではコマーシャルであることを意識しています。広告や雑誌などメディアで使用される「図版」が「イラストレーション」だからです。海外ではもっと広い意味での「イラストレーション」を意識しています。ぼく自身はグラフィック・アートと呼んでいるもので、これらはよりパーソナルな「絵」でもあったりします。しかしそれを「イラストレーション」としてコマーシャルの世界で受け入れる土壌があります。正直なところ、この違いにジレンマを感じています。誤解を恐れずに云えば、イラストレーターが描いたものを「イラストレーション」とする感覚には疑問を持っています。
Daydream for Hewlette Packard (Spain)
H.M なるほど。テクニカルな見解では我々の業種もしかりあらゆる業界にもかなり同じ事が言える気がします。
その根源はやはり教育だけでなく、クリエイテイブな事の寛容さみたいな、余裕がない感じがします。
本来はもっと自由な視野と逆にミックスしては行けない境界線等、カテゴライズするバランスみたいな事が必要ではないかと。
やはりあらゆる業界で21世紀の新たな形を見い出し行動しなければ行けない時期かも知れませんね!
話は変わりますが、昨年LAで『アールヌーボーと女性像』のテーマでのグループ展に参加されましたが、その経緯とそれによって何か変化した事はありますか?
YOSHI TAJIMA 現地のキュレーターから開催一年前に連絡をいただきました。全10名が選ばれたのですが、もともと自分が好きだったDeanne Cheuk、Pomme Chan、Alberto Sevesoらの名前を見て参加を決めました。アールヌーヴォーから100年経った今、現代のイラストレーター/グラフィックデザイナー/アーティストの作品に描かれる女性像を、それぞれの作家のライン(線)に焦点をあてて検証するといった企画でした。機能的で画一的なモダンデザインが幅を利かせている今だからこそ、アールヌーヴォーの豊かな装飾性や飛躍する造形を現代的解釈で観てみる試みは有意義だったと感じています。
http://www.redefiningtheline.com
H.M 非常に興味深い展示会参加でしたね!何よりもその全ては今迄の活動があってこそですね,後は出会いですね!
しかし1世紀をも時空を超えた試みで、何かが生まれる楽しさの様なものが伝わってきます.
最後になりますが、今回THE SALONのメインビジュアルをコラボレーションした流れで新たなプロジェクトも進行中ですが、今後の田嶋さんの新たな試みとイラストレーションを含むクリエイテイブ活動のあるべき姿や、その先にある未来の形とは?
YOSHI TAJIMA 今回のコラボレーションはまさに『アールヌーボーと女性像』展の参加を経て感じていたことをビジュアルにしたものでした。
今は情報が容易に入手できる環境に生きているにも関わらず、なぜか人々の意識は同じ方向へ向かっているように思えてなりません。飛躍的に増えた情報を自分だけでは消化しきれなくなっていて、それらをキャッチアップする為にその選択や判断までを自分以外の誰かにゆだねている(象徴的貧困)。例えば、ファスト・ファッションに群がる状況は低価格や経済不況だけが原因だとは思えません。そこには自らが本当に感じたり楽しむといった想像力(創造力)の欠如があると思います。
THE SALONと進行中のプロジェクトでも引き続きこの象徴的貧困に対してアンチテーゼを掲げたいと思います。また同時に、ぼく自身が感じている「イラストレーション」を国内外の作家と見せて(魅せて)いければと思っています。いつも受け身な立場のイラストレーターが声を荒げる機会になればと(笑)。そして少しでも古い因習を見つめ直すきっかけになればと思っています。ビジュアルという武器を持って。
H.M ありがとうございました。お話を問う流れで少し強引かもしれませんが、
何だか昨今の日本の政治経済をも示唆させられるような抜本的改革みたいな感じがして、我々もまた、美容業界という垣根も越えて21世紀に必要とされる存在に成る決意が更に芽生えました。
本来クリエーターの持つ伝えれる力を、こんな時代だからこそ本当に必要だと思います。
創造性を生かし五感を刺激し常にポジテイブな姿勢で取り組んで行きたいですね!
個人的な事ですが、何だかイギリスで同じ時間を共にした時と同じ感覚が蘇りました。
そして、あの頃と同じぐらい熱い心がある事を!
interview by hiroshi manpuku
8am for THE CREATOR MAGAZINE (Spain)
田嶋吉信(たじまよしのぶ)
グラフィック・デザイナー/イラストレーター
千葉県松戸市出身。The American Intercontinental University in London(コマーシャルアート専攻)卒業。
大学在学中から2003年まで音楽関連を中心に広告、エディトリアル、映像、CDカヴァ等のデザインを幅広く手掛ける。2004年より始めたイラストレーションの活動を機に、空気感や香りを感じさせる詩的でファンタジックな世界観を得意とするデザインスタイルになる。
2007年秋に初著作『Paris! Circue! Paris!』を上梓。本ポスターは2008年TDC賞(東京タイプディレクターズクラブ賞)入選。2009年世界陸上ベルリン大会の公式アーティストとして世界中から20名の一人として選ばれ作品製作。同年カリフォルニア州立大学内メインアートギャラリーで開催されたグループ展「Redefining the Line~アールヌーヴォーと現代女性像」に招待され作品展示。
http://www.radiographics.jp