wk: '09-SS、AWの2シーズンを通じてⅠ・Ⅱと続けてこられた、TALKING ABOUT THE ABSTRACTION(以降TATA)のテーマ「CITY TRIVE」について、まずお聞かせ下さい。
NAOKI ICHIHARA(以下NI) :そのまんまなんですけど「CTIY TRIVE」=「街の民族」ということです。
街(ジャングル)に住み、日々仕事(狩猟)に出かけ、家族を守りながら一生懸命生きている人々が着用する為の衣装、ということをコンセプトにしています。
wk:
確かに、ジャガードをはじめ独特の柄物や民族調の雰囲気が強く印象に残りました。
「街の民族」というコンセプトに行き着いた理由というか、アイディアのルーツはあるのでしょうか?
NI:
元々アフガニスタン、アフリカ、インドネシア、ヨーロッパなどの古い柄物や手仕事物に興味がありました。いわゆるビンテージと呼ばれる「一点物」ですね。昔の物だし民族衣装だったりするので、まずタウンユースには向いていない、日常的に着用しにくい物が多いんですけど、それをデイリーなアイテムとして現代の価値観にフィットさせ、普段使いの洋服に落とし込む、というのがこの「CITY TRIVE」の趣旨です。
wk:
例えば「民族調」の洋服、ファッションって他にも沢山あると思うんです。勿論ビンテージを販売しているショップもある。その中で、TATAとしての独自性というか「らしさ」って何だと思われますか?
NI:
確かに、そのもの(古物)を同じ様に手仕事で、全く同じ素材で作ること自体は不可能ではありません。でも、それだと値段的に非常に高額になってしまいます。しかもそんなに多くは作れない。
そこで、自分たちの手法と自分たちらしいアイディアで、全く違うデザインを用いて、かつ日常的に着用できるタウンユースアイテムとして「Re・デザイン」したのが、これらCITY TRIVEのアイテム達だ、と言えるんじゃないかな。逆に考えれば、昔の服をそのまんま作る(真似る)んだったら、デザイナーなんていらないと思いません?だから、今この瞬間の自分たちの思いとか感覚を洋服に表現する、ということに意味があると考えているんです。
wk:
なるほど、良くわかります。
今やTATAの代名詞にもなっている「転写プリント」物。時にはTATOO(入れ墨)の入った実在の人の皮膚を転写したりと、かなりマニアックな作り込みをされていますよね。そのあたりのコンセプトにも通じているのかとは思うのですが、そもそもプリント物にこだわる理由ってあるんですか?
NI:
「一点物の量産」というのが、TATAのメインコンセプトなんですが、そこに至るきっかけというのがありまして...。実を言うと、高校時代「ツッパリ」をやってたんです(笑)。
それがある時、友人の着ていたビンテージの洋服を見て「ビビッ」ときちゃったわけですよ。
すぐに髪を切りに行き、カンフーシューズを脱ぎ捨て、短ランとボンタンをやめ、髪の色も黒く戻して、今後はどちらかと言えば River Phoenix 寄りなスタイリングで行こうかなっ、と...。決定的に考えたわけです。ある意味その友人の存在がなかったら、今の自分の人生もたぶん別なものになっていたかも知れませんよね。そこからはもう洋服にはまりにはまって行く人生を送ってきました。同時に古着やビンテージはもちろん、映画の劇中で着られている衣装などへの興味を深めて行きました。
そして、ある日突然「世の中に1つしかない服(ビンテージ)って、1人だけしか所有できないじゃないか!」と。ならば、それを量産できないか?と考えたんです。そこから生まれたのが、あの「プリント物」というわけ。
wk:
「ツッパリ」のくだりは、なかなか興味深いですね(笑)。今のichiharaさんからは想像出来ませんが...、それらのデザインというかアイディアって、どこから涌いてくるんでしょう?何かにインスパイアされるとか?
NI:
プリントになるネタは、私物だったり友人のものだったり、若いときに古着屋を巡って探しあてた物などなど、まったくの宝探し感覚ですね...そういった自分の感覚に訴えかけてくるアイテムをはじめ、テキスタイルやイラスト、写真なんかをTシャツやカットソーに転写する。自分の感覚に「ヒット」したら、すぐに転写します(笑)。そういうこだわった物や数少ないものにしか目がいかないんですよ。大量生産されていないものに鼻が利くというか...。
そんな古き良き時代のビンテージや手仕事物などの「一点物」を手に届く値段で、しかもできるだけ多くの人達に紹介したい。それがTATAの考えです。そういう意味において「CITY TRIVE」の底流にあるコンセプトも、決して特別なものではありません。でも、やっぱり「にやっ」としてしまいますね。例えば自分が高校時代着てたボロッボロのジーンズを、プリントとはいえ街で普通に見かけるんですから...。でも、同時にそれが「一点物の量産」ということの本質なんだ、と実感する場面でもあります。
wk:
ちょっとした遊び心の延長で、あんな洒落や風刺の効いた「転写」に発展していたとすれば、それはそれでインパクトありますね!毎回度肝を抜かれるアイテムが登場してくるので、今回も楽しみです。
さて、話は変わりますが、ここ最近苦戦が伝えられるアパレル業界にあって、ファストファッションの台頭に象徴される今の経済事情等を考えると、洋服に対するユーザーの意識も変化してきているのでは?と感じます。そういう意味で、TATAのスタンスというか存在理由みたいなもの、また今年8月の新しいコンセプトによるNEW SHOP「CASSOWARY」オープンは、今模索されている方向性に対する1つの答えの様な気もしますが...そのあたりはどうお考えですか?
NI:
そうですね...、それには幾つかの考え方や、価値観が存在していると思います。
今や服を見るのも買うのもTVやネットでできてしまう。ということは、人と人との接点が少ない、または薄くなっている世の中だと言えますよね。少し話が違うかもしれませんが、僕の父は商売人で(今現在も)、毎日近所のおばちゃん達と接点があり、しかもそこには濃密な時間が流れているんです。小さい頃の僕のおやつなんかも、お客さんであるそのおばちゃん達から貰ったあめちゃんやお菓子なんですよね(笑)。今の時代性を分析すればする程、そんな個人商店的な「人と人との繋がり」が、今以上に必要な時代は無いんじゃないか、と。
売る側の物言いになってしまい恐縮ですが、僕達は例えば「回転寿し」に象徴される利便性や値頃感を捨てるかわりに、小さくてカウンターしか無いけど、腹に一物抱えた「頑固オヤジ」が握る寿司屋の、まさにその頑固オヤジになろうじゃないか、と。
例えば、100年前にイギリスで起こった産業革命の時も、今と同じ状況だったんじゃないかな?それまでの手作業から機械による大量生産が始まったわけですから...。でも、世の中にはどちらも必要で、こっちの方が偉い、とかじゃないと思うんですよ。政治や経済といった大局から人類や社会に貢献しようと考える人もいれば、影響力は小さくても、心や文化を通じて世界を良くしようと考える人もいる。要は「自分たちがどうしたいか」だと思うんです。そして僕達は今の形を選択したに過ぎない。
一見すると、1日10人集客するお店よりも1日1000人集客するお店の方が価値が高い様に思えますが、一人一人に納得のいく接客も出来ずに、「これ頂戴」「ハイどうぞ」という感じであれば、最初から完全にスーパーマーケット化すれば良かったわけです。しかしそれでは、一般受けしないマニアックなものを、ストイックに作り続ける意味が無いじゃないか!と...。だから地味でも、今の様にこだわった形での服作りを模索して行きたいし、出来る限り同じスタンスで長くやっていきたいと考えていますね。
wk :
なるほど。
独自性や独創性、コミュニケーション力という自分達らしい武器で戦っていく、ということでしょうか?お話を伺っていると、私達ヘアの業界でも全く同じことが言えるので、いちいち納得してしまいます。でも、だからと言ってメジャー化を否定し、収益を辞退しようというわけでは無さそうですが?
NI :
もちろんです。
それは「CASSOWARY」の存在に集約されている様な気がします。
CASSOWARYとは火喰鳥のことなんですが、彼(彼女)らは森で木の実や植物の種を食料としています。中には消化されない種なんかもあって、それを移動した場所に糞と一緒に運んで行くわけです。結果、自力で動けない植物や樹木に代わり、新天地に新しい森を運ぶ役割をしているんです。
話の筋からはそれますが、例えば今の若い人達は、だんだんと物を見る目が無くなってきている、薄れてきている様に思えるんです。なぜなら、その辺のお店でごく簡単にカッコいいパンツが5800円で買えるような時代だから。でも、裏を返せばそれがカッコいい時代でもある。単なる否定では無くて、売る側と買う側の双方が「呼応」し合うことで成り立っているのが経済ならば、お客さんも真剣、作って売る側も真剣、フェアーな真剣勝負がそこでは繰り広げられていると思うんですね。お客さんは、本気でその服が欲しかったら真剣にお金を貯めて買いにくる。奥さんと交渉したり(笑)、少ない小遣いを必死にやりくりして買いに来てくれる。そういう人間の欲求や文化があまりにチープになり過ぎると、かえって経済にはマイナスで、そもそも物の価値自体、限りなく目減りしていってしまうと思うんです。広義には「文化」そのものの衰退にも繋がりかねない。
wk:
同感です。
ある一定の価値観を維持できないこと自体、経済としては既に破綻している、ということに多くの人達が気付いていないことが残念です。長く1つの業界で活躍している人ほど、その傾向が強い様に感じます。
違う見方をすれば、こんな時代だからこそ、新しい考え方や価値観を持った人達も増えていき、多くの人々のマインドや欲求もより強く、より多様化していくんじゃないかと...。
NI:
多分、人間が人間である以上、人と違う装い(個性)、人と違うことやものへの欲求が失われることは、未来永劫無いんじゃないかな。だから、本当に良いもので、相手に欲しいと思わせられる魅力ある「もの」を作ることができれば売れるだろうし、値段に勝てる魅力ある商品を作り続けられるかどうかが我々の存在理由なんだと思っています。
実は、今僕が話してきたことと同じ様なことを考えていて、ただ現実の行動としてどう動いていったら良いのかに悩み、結果くすぶってしまっている「若い次世代の作り手達」が大勢いるんです。そんな奴らとの偶然の出会いから具現化した箱が「CASSOWARY」なんですよ。
wk:
なるほど、そんな経緯があったんですね。
僕達もTHE SALONやTHE MAGAZINEを通して、新しい価値観の共有というか、新時代的な情報発信源として、今の形に落着いたんですが、答えが出るにはもうしばらく時間がかかりそうだな、という認識も同時に持っています。全く同じ土俵で語れないのは前提として、何故「今」このタイミングだったんでしょう?
NI:
「シンクロニシティ(偶然の同時発生)」的に、と言うと少し大袈裟かも知れませんが、今まさに政治や経済にしてもそういうタイミングですよね。時代の転換期というか過渡期というか...、何も考えていない人も組織も淘汰される、そんな閉塞しきった時代だと思うんです。それをストレスに感じて悲観するか、チャンスと捉えるかで、結果が大きく変わってくるんじゃないでしょうか。もっとも国を動かしていく様な偉い人達でさえ、その大きな流れからは逃れようがない。「このままではダメだ!」と、やっとみんなが考え始めたんじゃないですかね?
ただ、このCASSOWARYに関して言うと、2~3年前から構想だけはあったんです。でも、実現するまでには、それなりの時間が必要でしたね。「個」を集団にする、という新しいコンセプトのもと、既存の価値観に捕われない「自由編集」のショップなんですが、解りやすく言うとTATAも含め、それぞれのブランドが独自性を失わずに参加している「CASSOWARY(カソワリ)」というプロジェクト名がそのまま屋号になった、って感じでしょうか?ともあれ、やっとスタートラインに立てた、というのが正直な感想ですね。
wk:
「良質な古物」「斬新な一点物」を見抜く「眼力」を、次の世代に残して行く人達がいないと、良いものがどんどん無くなっていってしまうかもしれない、という懸念。だからこそ、そうやって若い人達や周りの人を感化し、巻き込んでいける少数派の存在する意義は、良い服を作る意義と同じくらい意味のあることだと思います。
NI:
30(年齢)を過ぎて、家庭を持ち、子供ができる。そんな経験を通じて、昔じいちゃんばあちゃんや両親が口うるさく言っていたことが、ようやく理解できる様になっていくじゃないですか。それと同じ様なことだと、基本的には思っているんです。
例えば、今まさに服作りを始める若い人達の間には「メジャーブランドやアパレル大手を相手に、何したってダメだ」という気分があるのは現実です。「でもそうじゃないよ」という部分で、CASSOWARYが存在している。こういうショップを関西から広げて行きたいし、現実に京都や東京への新規出店の話も持ち上がっています。まあ、いずれにしても予定は未定ってことで(笑)。とにかく面白いことが好きなので、面白そうなことなら、何にでもチャレンジする用意はあります。
wk:
現実の部分で、これからのことを何か構想されてますか?
NI:
着地点や目標としていることはあります、しかしそれが全てでは無いと思う。
でも、ショップが増えることや、収益が上がることには当然前向きです。スタッフやその家族を養う義務もあるし、自分たちが共感する文化や心の豊かさを広げる、若い才能を発掘し育てる、キレイに言い過ぎかも知れませんが「希望の芽を絶やさない」という意味においても、収益を上げることには、それなりにこだわっていくつもりです。と同時に、同じ価値観をもった仲間が増えたり、組織が大きくなっていくことも、目指している着地点の中の1つです。そんな「新しい森」をどんどん広げていく、大切な文化や心を守り受け継いでいく、CASSOWARYというプロジェクトには、そんな意味が込められています。長くなりましたが、答えになっていますか(笑)?
wk:
ええもちろんです!
今回はお忙しい中、ありがとうございました。
ますますのご活躍と更なる飛躍を期待しています。
INTERVIEW BY WK
<市原直樹>
昭和48年5月7日生
丑年
O型
牡牛座
京都産業大学卒
古着屋、ジーンズメーカーを経て2000年、仲間とTATAを立ち上げる
今期で9シーズン目を迎えた
2009年8月、新たなコンセプトのもと生まれた「CASSOWARY」をオープン
<CASSOWARY>
大阪市中央区博労町4-5-6
http://www.tata.co.jp/