トリー・バーチと言えば、2つの「T」を上下対象に並べた特徴的なロゴマークで知られており、上品なレトロ感と大胆でエキゾチックな色使いやグラフィック・プリント、エスニック調のディテールなど、モダンでソフィスティケイトされたデザインで有名なブランドである。
しかし、このブランドの最大の特徴は、「Tory Burch Foundation」という非営利団体を同時に運営していることではないだろうか。自身ファッションデザイナーとして、離婚歴を持つ母として、また起業家でもある自分の経験に基づいた働く親としての視点から、2008年この財団を設立。
アメリカの国勢調査によれば、およそ1300万人もの市民が〝深い貧困〟に喘いでいる。医療給付や失業保険の対象となる「貧困層」の大半を占めているのが、実は女性であることはあまり知られていない。特に母子家庭での貧困リスクが最も高く、基本的な生活費をカバーすることすら難しいのが現実だ。子供がいるというだけでまともな職業には就けず、劣悪な労働環境や条件を強いられ、悪質な場合、人権侵害まで横行しているのだ。
それらのリスクを避け、自立した女性が子供と自分の「命と生活を守る」為の手段として、Tory Burch財団がサポートしている選択肢の1つが、「起業」である。離婚歴のある子持ちの女性であれば、一般的な銀行融資は、ほぼ拒否される(金融差別)ケースが殆どだ。そこで、Tory本人の指揮のもと、財団の最初のパートナーでもある「ACCION アメリカ」との協力による融資サービスを提供しているのだ。これは「マイクロファイナンス」と呼ばれ、融資+金融教育プログラム+金融リテラシーのトレーニングなども含まれる「総合経営サポート付き小規模融資」とでも言えば解り易いだろうか。
もちろん慈善事業ではないが、その代わりに女性の生活向上に長期的な貢献ができる画期的な金融ツールであるのも事実。それらを総合的にサポートしているTory Burch財団の役割は、非常に重要である。
また、ファッションという流行や気分に左右される事業を展開している同じ起業家が、全く別次元の財団を通じて、自身と会社の顧客でもある女性の自立と生活や地位の向上に貢献している、という事実が新鮮で、また非常に興味深い。単に「洋服を売る」相手としてだけでなく、融資から起業、生活水準やファッションに至るまでの気配りを通じて「ブランドと顧客」という関係性を超えた、何か女性同士の「絆」にも似た感情を築いていっているかのようだ...。
Tory Burchは、これからのファッション業界へ、1つの問題提起と共に新たな流れを作るブランドであることは間違いない。同時に、ファッション業界にも「social entrepreneur(ソーシャル・アントレプレナー)」という新たな起業の価値観が見え隠れしてきている様だ。
text by wk
「TORY BURCH」
・1966年、フィラデルフィアに生まれる。
・大学を卒業後ニューヨークに移り、ファッションにまつわる仕事のキャリアをスタート。
・Harpers Bazaar magazineやPolo Ralph Laurenのコピーライターとして活躍。
・2004年2月「Tory Burch」をNew Yorkにオープン。
・2005年 Rising Star, Fashion Group International
・2007年 brand launch award, Accessories Council of Excellence
・2008年 CFDA Accessories Designer of the Year, 2008
・日本では昨年12月、路面店第一号が銀座にオープン。
[Reference]
http://www.toryburch.com/
http://www.accion.org/