デザイナーであるMARTIN MARGIELAの存在しない「Maison Martin Margiela」は、昨年で20周年を迎えた。
1988年、Jenny MeirensとMartin Margielaの2人は会社を創設。同年10月、1989 S/S パリ・コレクションにてデビューを果たした。ゆったりとしたシルエットのミラノモードに対して、当時としては実験的な、体にフィットさせたシルエットを発表。それ以降、常に前衛的な集団として「Maison Martin Margiela」は、ファッション業界での地位を確立してきた。
一時期、Margiela本人の引退という話題で持ちきりになったが、実はずっと前からすでに引退していたのではないか?というまことしやかな噂まで流れ、業界を賑わせた。しかし、そんな周りの喧噪はどこ吹く風と、スーパースター不在の「maison martin margiela」は、しっかりと地に足をつけて、今回もアンチモードな作品群を発表してきた。
チーフデザイナー引退騒動の渦中であるにも関わらず、アントワープのMOMU(モードミュージアム)とロンドンのsomerset house(サマセット・ハウス)で、創立20周年という分岐地点となる展覧会を開催する運びとなった。特にロンドン会場は、テムズ川を望むストランド地区南側、ウィリアム・チェンバーズによる大規模な建造物で、中央部は新古典主義建築。その後南北に古典主義的なヴィクトリアン・ウィングが増築されたことでも有名な、由緒ある建物を使用。
ブランドテーマである〝Time〟 と〝History〟を表す白を基調とした空間を、今回もいつも通りに演出。白が汚れることによる、歴史と時間の経過を表現した。また、新しいものから古い物への移ろいが、ある種の錯覚を感じさせる演出も心憎い。そして、とても心地良さそうな感覚と、ピリッと張りつめた空気感による独特の雰囲気があり、作品の多くは、その空間に存在しているだけで絵になるよう、スペースの使い方や配置へのこだわりが見てとれる。恐らくは、それも彼らの計算なのであろう...。そして、オブジェや文字が書かれたバスがひと際存在感を放っていたり、コレクションの映像が流れていたりと、その優れたパフォーマンスには毎回驚かされる。まさに『素晴らしい』の一言である。
内容としては、基本的にこれまでのコレクションそれぞれを解剖した様な演出で、年代とは関係なくテーマにそって20年の歴史を一挙公開という形で展示されている。例えば2005 S/S 「Assemblage(集合)」からは、2つの古着のファーコートを合体させたようなデザインであったり、有名な「転写デザイン」が展示されている。あるいは「Flat Gorments(平らな衣服)」という1998 S/S コレクションの作品があったりと、時間軸による統一感は無い。それに「破壊(1989-90 A/W)」という、壊したお皿を並べて「ベスト」にするというアバンギャルドな発想などなど、さまざまな表現手法、技術が惜しげも無く投入されている。また、少ない色使いとパターン、形や質感、ラインなど、脱構築的かつクリエイティブな作品を発表し続けてきたこのメゾン独特の特殊性がいかんなく発揮されている。しかもその全てが至ってシンプルであり、雑然としながらも全体として統合されている、という妙な違和感もまた面白い。また、それこそがMaison Martin Margielaの存在感なのかも知れない。
次世代を担う若手クリエイター集団として生まれ変わった「Maison Martin Margiela」が、今回のエキシビションで見せた実力とは、実は未だMARGIELAという比類無き天才の存在感だったのかも知れない...。しかし、これから受ける評価と人々の期待には、必ず答えてくれることを期待したいし、1人のファンとしては是非そうあって欲しいと願わずにはいられない。
参考資料 wikipedia
text by NOKU