1957年、時を同じくしてSwissで「Univers」、「Helvetica」という2つの世界的なフォント(書体)が生み出された。
衛生中立国のスイスは、国境がドイツ、フランス、オーストリア、イタリアの4国と接しており、地域によっても話される言語が全く異なる。
当然ながら、街の標識も当たり前の様に3カ国語表記だったりする。
そこで、1つの看板に異なる言語が並んでいても違和感のない「書体」をつくる必要性から誕生したのが、ユニヴァースとヘルベチカだ。
デザイン的にも非常に良く似ているわけだが、商業的に成功したことでいち早く国際化し、グラフィックデザイン界にも広く受け入れられたヘルベチカは、現在までに世界中の街で見る事ができる汎用書体として成長を遂げた。
ヘルベチカ書体
ユニバース書体
一方「Univers」は、スイス人Adrian Frutigerによってデザインされ、フランスのデュベルニ&ペニョー鋳造所から写植活字として発表されたラテン文字のサンセリフ体書体で、ヘルベチカほどではないにしても、多くのシチュエーションで利用されてきた。
Swiss International Air LinesやDeutsche Bank(ドイツ銀行)、日本でもコーポレート・タイプ(企業の制定書体)として利用している企業は多い。
ちなみに、Adrian Frutigerの名を冠した「Frutiger(フルティガー)」というフォントは、フランスのCharles de Gaulle International Airport(シャルル・ド・ゴール空港)の標識案内用としてデザインされ、遠くから見たときの視認性に優れていることから、サイン用書体としてターミナル駅や空港など、世界中の交通案内用看板・標識類などに用いられている。
エレガントでありながら明るさと活発さを兼ね備えたこのフォントは、ユニバースより有機的な印象が特徴。
日本では、JRや東京メトロの他、京阪電鉄などの構内サイン用として採用されている。更にこの書体を元にして発展的に作られたと言われている「Myriad(ミリアド)」は、AppleやAdobe Systemsのコーポレート・タイプとしても有名である。
ミリアド書体
デザイナーのWim Crouwelは語っている。「私は分かりやすさにこだわる。書体は明確で読みやすく単純なのがいい。書体に意味があってはならない。意味は文言にあるべきで、書体に含むべきじゃない。だからヘルベチカを愛した」と...。
これは、一つの真理なのかも知れない。
ヘルベチカは、特定のイメージを持たず、中性的で非常に洗練された書体であるがゆえに、見る人の無意識に訴えかける力を持ち得たのだろう...。
ヘルベチカの商業的な成功も、それを採用した企業の狙いも、見事にヘルベチカのイメージ(特定のイメージを持たない、というイメージ)と合致したわけだ。
ユニヴァースの様なエレガントで合理的なスタイルが特徴のフォントが、何故そのデザイン的価値に見合った評価を受けてこなかったのか、はなはだ疑問ではあるが、文字そのものが持つ意味に、より深みをや親しみを付加できるのもまた、フォントの力である、とは言えないだろうか?
ことある毎にメディアやデザイナーがフューチャーしてきたヘルベチカを「20世紀を代表するフォント」と呼ぶならば、ユニヴァースはさしずめ「新世紀のフォント」といったところか。
グローバリゼーションという意味では、これ以上無い名前(ユニヴァース=宇宙)を冠した書体だと思われるから...。
旧来の経済の仕組みが崩れていく現代において、また無機質なエコノミカル主義の象徴たるヘルベチカ的なものからの脱却という意味においても、21世紀の企業やデザイナーには、是非とも『ユニバース的』価値観のもと、確固たる歩みを進めて行って欲しいと、願わずにはいられない。
Text by wk