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  • Posted on
    2009.03.10
  • posted by kenshin.

記憶




「自分は、なんて頭が悪いんだろう」
一生懸命暗記したことでも、一晩たつと見事に忘れてしまいます。しかしそれは、必ずしも「頭が悪い」から、というわけではなさそうです。

心理学の研究によると人は、覚えた直後から急激に忘れていく、ということがわかっています。急激に70~80%忘れ、そして記憶に残ったものは、その後長い時間が経ってもなかなか忘れません。
例えば、高校時代(私の場合は20年前)の無数の出来事の殆どを忘れていますが、今も覚えている高校時代の思い出は、この先歳をとってもずっと覚えているでしょう。

私達凡人は、時に記憶力のなさを嘆きます。しかし、果たして記憶力の良さが、そのまま幸福へとつながるでしょうか?これには少々疑問が残ります。
血の繋がった肉親や最愛の人との死別。病気や悩み事など、数々の辛く苦しかった記憶。(故意にでは無くても)不用意な言動に、心を深く傷付けられた経験...などなど。そんな記憶をいつまでも鮮明に覚えていたら、人は普通の生活を送ることさえままならないのでは?そういった見地から考察するに、物忘れも「人生の恵み」の一つかもしれない、とは言えないでしょうか?


記憶は、覚えている時間別に3つに分けられます。

「感覚記憶」
ほんの一瞬だけの記憶です。雑踏を歩いていて次々とすれ違う人の顔。確かに一瞬目に入りますが、記憶に残ることは無く流れ過ぎていきます。

「短期記憶」
アドレス帳の電話番号を見る。番号をダイヤルする。このときは覚えていますがすぐに忘れ、必要なときにはまたアドレス帳を見ます。短期記憶は、10秒ぐらいの短い記憶のことです。数字で言うと、普通7つ前後しか覚えられません。

「長期記憶」
小さな子供が、一生懸命自宅の電話番号を覚えています。覚えてはすぐに忘れ、また覚える。こうして繰り返していくうちに、もう忘れなくなります。これが長期記憶です。



パソコンに何かを記憶させるとき、まず人間の言葉(打込んだ文章や数字)がパソコンのデジタルデータに置き換えられます。そしてそのデータがDVD等のメディアやハードディスクに蓄えられます。必要なときに必要なデータだけを検索して、目的の情報を呼び出します。
人間の記憶もこれと似ていて、まず脳に記憶できる様に、ある情報が「符号化」され、その符号化された記憶が、脳に「貯蔵」されます。そして必要なときに「検索」されて出てくる、といった具合です。
例えばテスト問題が解けないとき、そもそも授業中に頭に入っていなければ、符号化に失敗していたことになりますし、一文字違いで間違えた場合などは、貯蔵している間に記憶が変形してしまった可能性があります。また、喉まで出かかっているのに思い出せない、というのは、検索に失敗したことになりますね。

更に、こんな質問はどうでしょう?
「あなたは総理大臣の自宅の電話番号を知っていますか?」
考える必要もなく「知らない」と答えるでしょう。
どんなに分厚いアドレス帳を持っていても、総理大臣の電話番号など「書いてある訳がない」と、常識でわかるからです。この人間の検索力は素晴らしいものです。推測や関連性を交えて検索する能力のない機械だと、順番に調べていって最後まで調べ終わり、ようやく「アリマセン」と回答するわけですから...。

また、記憶が変化していく、というのも人間ならではですね。大抵自分に都合の良い記憶に置き換えられたり、美化されることが多いと言われています。

更に、初めての経験なのに、前にも同じことがあったような気がする。考えれば考えるほど確信が深まる。これをデジャブー(既視感)といいます。
「生まれ変わり」だとか「タイムスリップ」だとか、いろいろ想像力を発揮したいところでしょうが、心理学的にはただの「記憶の錯覚」です。
以前経験したはずなのに、全く記憶に残っていないことはよくあります。デジャブーはその反対です。とはいっても、デジャブーってやっぱり不思議な感覚なのでしょうね。

私たちの思い出には、楽しい思い出もあれば辛い思い出もある。また、人それぞれ苦労した人もいれば、楽してきた人もいる。
ところが、様々な世代や職種の人を調べてみた結果、どの人も楽しい思い出が60%、中間的な思い出が30%、辛い思い出が10%だったそうです。
人々は自分の経験を心の中で整理し、どの人も60%の楽しい思い出を作っているようです。
すばらしい思い出を作るためには、普段から心を整え、感受性を豊かにしておくことが大切なのですね。

text by wk

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