彼の画くキャンバスからは、それぞれの時間が流れており、それぞれの行動、建物があちらこちらにと、まとまらずに、尚かつ全体を見渡すと、それぞれの人物や建物の個性がいきつつ、何とも言えないバランスでまとまっている。描かれているのは、二面性を意識したような感覚であり、品格と野蛮、明るさと暗さ、静寂と喧騒、パブリックとプライベート、クラシックとコンテンポラリーなど対比しあう要素が一つの画面に混合されていることがよくわかる。
目の錯覚かと思わせるくらい、調和されたコラージュには脱帽。
彼の絵にはよく黒を見かける、彼の表現する黒は吸い込まれるような宇宙の黒、とてもよく生える。
黒の中に、クリーム色、くすんだ色、淡い色がざわめき合う。
しかし、そのざわめきも心地よく聞こえる。うまく混ざりあえる。
見ていると、拘束された気持ちが解放される気分、きっと彼の独特の雰囲気が、毒素を抜いてくれるのであろう。
2~3歳頃からずっと絵を描き続けてきた彼は、「抽象的な感覚から、色や形を描きだそうとしている、最初はそういう風にして色や形に抽象的なアプローチをしている、少しづつそれは変形していって、最初はパンとして成り立っているのだが、カビが生えていく長い生物化学的家庭をとおして、キノコみたいになって行く。
最初の段階では、美味しいパンを作りたいと思っていても、最後に出来上がったパンには、沢山のキノコが生えていて、みんなが吐き気を催すようなものになったり...」と語っている。
彼はいつも奇麗な物を描こうとして、それを徐々に構築していった物を崩して行く事の過程を大事にしている。
いつも子供心や、悪戯心、が見え隠れするJockum。
決して奇麗な方法ではないが、濁った感じに心が揺さぶられる。
これだけ空間のバランスが、独特で、ずっと同じ手法でやり遂げた現代美術家もそうはいないのだろう。
Jockum Nordström(ヨーケム・ノルドストリョ-ム)
1988年の初個展以来、欧米全域で広く展示される。ハマー美術館(LA)、モデルナ美術館(伊)、MoMA (NY)、テート美術館(ロンドン)など。絵本シリーズ「セーラーとペッカ」は'99年にエルサ・ベスコフ賞を受賞して以来世界中に愛読者を持ち、2008年「この絵本が好き!(平凡社)」で海外翻訳絵本第2位に選ばれた。妻で画家のMamma Anderssonと二人の子供とともにストックホルムに暮らしている。
text by noku