有名な家系に生まれ、共に画家という父母の影響もあり、幼児期から彼女は芸術という空気の中で育った。そんなナターリヤが絵画に目覚めたのは、わずか6歳の時である。従来の芸術に逆らって〝何か〟をしたかった彼女だが、暫くは比喩的な期間を経ている。しかし、やはり現実的なジャンルではあきたらず、次第に今の手法に行き着くことになる。
家、木、教会、スペース、日光、または、線、点、ストライプ、円、螺旋、正方形、クロスなど、形の簡潔なヒエログリフを作成することで、それらが象徴するシンボルは、故意に空けられたスペースによって原型を要約されている。そして写真撮影、金属、組織、物の断片等の要素を使用し、コラージュ技術によって〝永遠の主題〟を与えられている。
これら芸術的手腕と詩的な優美さは、彼女に特有の表現である。また、彼女の作品の多くは、主観的・感覚的要素を極限まで排除しようとするミニマリズムの流れに位置づけられる。
彼女の絵の多くは明るい色で満たされている。いわく「私は均一な色の組合せが好きです。白と白、赤と赤、または対照的な色、白と黒、赤と緑など。私は、色が奏でる『音』を、常に切望しているのです。」と...。
ナターリヤ・トルスタヤのアートは純粋で汚れがない。それは、まるで清浄で無垢な幼児期の記憶から呼び起こされているかの様に...。
[Nayalya Tolstaya]
1954年、モスクワ生まれ。
文豪レフ・トルストイの次男であるイリヤの孫オレーグ画伯と、グラフィック画家タチアナの長女。
1979年、シトロガーノフ芸術院絵画科卒。
ヨーロッパ各地、北欧、アメリカ、カナダ、シンガポールでの展覧会に出品。ミニマリズム画家として高い評価を受ける。ロシア政府が選出した〈最も優れた20世紀ロシアの女性画家〉の一人として、国立トレチャコフ美術館、モスクワ現代美術館などに作品が納められている。
text by wk