THE SALON STYLE JOURNAL

THINGS

エマニュエル•トッド 「世界の多様性」





556ページ 
藤原書店
訳者 荻野文隆

「帝国以後」等で脚光を浴びたフランスの人類学者エマニュエル・トッド

1980年ごろに出版されたトッドの「第三惑星」と「世界の幼少期」を合わせた合本 「人類の多様性を8つの家族構成の違い(親子関係や兄弟関係の従属性や平等性など)」で分類可能とし、特徴について述べており人類の未来や仕組みを読み解く一冊


なぜフランスでフランス革命が起きたのか、なぜ中国やロシアで共産主義革命が起きたのか、逆になぜドイツや日本では共産主義革命が起きなかったのか、なぜアメリカでは自由は最大限尊重されるのに平等は無視されるのか、といった、壮大なテーマを、それぞれの国の家族構成のあり方(遺産の相続のさせ方や結婚後の親との同居、いとこ婚の許容の有無など)から説明する、という大胆な仮説を提起しておりトッドの理論は様々な疑問を説明し、人類に起こる未来を予想し的中させている



例えばアメリカの家族帝国主義性がアラブ・イスラム圏との紛争をおこすことやソビエト連邦の崩壊をいち早く予言し日本に対しては日本が本当に恐れるべきは、社会変化による家族構成上の出生率の低下であり日本が移民の受け入れに消極的なことで、人口の減少に歯止めがかかる見込みは立っておらず、政治システム上は民主主義だが、国民はアメリカからの依存から脱却することを望まないように見え、心理的・文化的に日本はアメリカのリーダーシップからもっと解放されるべきでこのままでは日本が衰退して行くものと警告している




著者はこれまでの人類学や政治学では、家族構成という人類の基本的な最少集団単位を重視してこなかったが故に、人類の多様性やイデオロギーの発生メカニズムを見極められなかった、と指摘しており分析を踏まえて、家族構成の特徴(親子の関係、夫婦の関係など)により、当該エリアの経済の発展の仕方が異なることや家族構成の特徴が当該地域の経済の発展プロセスに大きな影響を及ぼしており、結婚年齢の上昇、識字率の向上、死亡率の低下、出生率の低下によって、経済成長に大きな影響を与えていることや、国家の働きだけに頼ったテイクオフはあり得ず極寒のロシアがテイクオフできたのは文化的な成熟と足並みが揃ったためで、文化的な成熟を伴わないままテクノロジーだけを持ち込んだ第三世界で高性能機器はただ錆びつき放置されるだけであったなどの色々な統計資料を通じて立証

すなわちトッドはこれら家族制度こそが、社会の価値観を生み出すのだと主張しており これはものすごく斬新であり目を開かせる説であるには違いなく人間の仕組みを読み解いたような学説で 宗教観や歴史的民族観等ではなく家族構成が人類の行動パターンに影響するという人類の謎や仕組みを書き記したものである  

本自体は500ページ強にも及ぶ読むには格闘になるけども訳もマイルドで読みやすく人類の仕組みを読み解くには面白い1冊 秋の夜長にどうであろうか



  • 2012.10.13