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『私という存在』 ~ MARINA ABRAMOVIC ~
このブログマガジンの前身であったTHE MAGAZINEを編んでいた時に紹介したアーティスト MARINA ABRAMOVIC
2013年のGIVENCHYのキャンペーンの顔としていきなり50歳オーバーの女性が登場。
それこそがMARINA ABRAMOVIC ケイトモスやマリアカーラなどのトップモデルと並び登場したのは デザイナー リカウドの惚れ込み方が半端ではなかった事が伺える 昨年のMOMAのパフォーマンスもしかり、彼女に今また再注目が集まる中、我々が2009年に早々と注目し紹介していた記事をもう一度振り返って皆さんに紹介したいと考え、再掲載したい。
MARINA ABRAMOVICのパワフルな魅力をもう一度読んでいただきたい
例えば「マンボ」と題された作品。 今はもう使われていないイタリアのヴォルタラにある精神病院で行われた彼女のパフォーマンスは、磁石を貼り付けた靴を履いて、鉄板のプラットフォームの上で3時間にわたってただひたすら「マンボ」を踊る、というものであった。 同じマンボの曲が、繰り返し繰り返し流される。真っ赤な衣装を着た女性が一心不乱に踊っている。
イタリアで行われたこのパフォーマンスは、踊っている彼女(アブラモヴィッチ)を見るために、観客も磁石の靴を履いて約100メートルも鉄のカーペット上を歩いてこなければならなかったという。 鉄の靴を履いて「マンボ」を3時間踊る。コンセプトは非常にシンプルである。
しかし「マンボ」の音のシャワーを浴びながら、磁石の付いた重い靴を履いて、自らもマンボを3時間ぶっ通しで踊ること想像してみると、いやがおうでも物理的な「身体」というものを思わずにはいられないだろう。そして同時に、ほとんど無意味で、苦行にも似たこの行為に没頭するアブラモヴィッチの姿に、感動しないわけにはいかない。
彼女の作品の多くがそうであるように、この作品でも自分の身体を極限まで追い込み、精神をその追い込まれた身体に寄り添わせながら、肉体と精神の限界のギリギリのところで見えてくる風景や体得できる「何か」を表現しているかの様だ。
彼女はこの作品を「精神的効用のために(Transitory Objects for Spirit Use)」と位置付けている。そして、パフォーマンスは観客無しでは成り立たない。観客は、アーティストに畏怖にも似た眼差しを向け、延々の行為を共にし、アーティストも自分を追い込むことによって「観る者にエネルギーを与える」。
観る観られる関係の磁場でだけ成り立っている作品であると言えよう。
その他、数あるMarina Abramovicの作品には、不吉や恐怖、痛みを感じさせる作品が少なくない。
梯子(はしご)の段をナイフに置き換えた立体「double edge」。
パフォーマンス映像では、ヘビが体を這い回る「dragon heads」や、パートナーだった美術家ウーライと向き合い、胸へ向けた弓矢を互いの体重で引き絞る「Rest energy」などがそれである。
「Rhythm 10」では、左手の指の間にナイフを素早く突き立て、「Lips of Thomas」では全裸で現れ、自らのへその周囲にカミソリで星形を刻んで見せた。 苦痛や危険を作品で扱うのは「今の瞬間に焦点を当てるため」だと言う。
「私たちは、未来を見通し、過去を振り返るうちに、大切な今、ここを忘れてしまう」と話す彼女はまた「恐れを表現することで、自分の中に抱えていたものを解放できた」とも自己分析している。 軍の英雄を父に持ち、大義に身を捧げる理想を抱いた青春時代。同時に、人前に出るのが苦手で、痛みや血に不安を感じる少女でもあったそうだ。そんな矛盾の苦悩から、パフォーマンスの経験を通して解き放たれたという。
「大切なのは、自分自身であること。自分が抱える矛盾を恥じることはない」そんな彼女の言葉は、深い経験から発っせられた、強い説得力を帯びている。 また、映像作品である「count on us」では、80人余りの子どもたちがステージで5段に整列し合唱する。歌声は明るい。けれど指揮をしているのは骸骨だ。子供達も全員真っ黒な服を身に着けている。明るい歌声とは裏腹な不吉さが漂う。 体に骸骨を着けた指揮者は作家自身(アブラモヴィッチ)。
合唱はベオグラードの10歳の少年少女による。 歌は「国連の素晴らしさをたたえる内容で、ベオグラードの国連関係の学校で歌われている」のだそうだ。骸骨が子供達を指揮する映像と合わせれば、ある意図が浮かぶ。
「国連はユーゴスラビアに何もしてくれなかった」との悲痛な思いだ。 旧ユーゴでは、1991年以降の連邦解体の過程で紛争が続いた。セルビア人とクロアチア人の衝突。ボスニア内戦。
コソボ独立紛争とNATO軍による空爆。
作品に登場する喪服のような衣装や骸骨は、暴力や死者の記憶をいや応なく呼び起こさせる。 複数画面を同時上映する「count on us」には、もう一つ印象的な部分がある。骸骨を着けた作家のまわりに、子どもたちが無言で星形に座る。 「未来の可能性があるとしたら、この子どもたちの世代。不確実な未来の星だけれど」 生の瞬間を凝縮したまばゆい光は、この星の将来を照らし出しているかの様だ。
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